世界の規制トレンド2025:分岐と収れん
各国で“安全担保”の枠組みを強化。日本は残留THCの限度値を明確化、欧州は低用量提案が浮上、英国は暫定ADI、米国は包括ルールを議会に委ねる状態が続いています。
2025年のCBD市場は、共通して「安全基準の明文化」と「適正表示」を重視する方向へと舵を切っています。日本ではΔ9-THCの残留限度値が形状区分ごとに規定され、限度超過は由来にかかわらず麻薬該当と整理されました。欧州ではEFSAがCBDの安全性評価を更新する準備作業を公表し、低用量の提案が話題です。英国FSAは≥98%純度CBDに対して暫定ADI10mg/日の評価文書を公表。米国FDAは既存の食品・サプリ枠組みは不適切と結論し、議会による新たな枠組みを模索していると述べています。いずれも“明確なガードレール”を整える流れで、表示や第三者試験の重要性が増しています。
日本:残留THC限度値の明確化と実務影響
油脂/粉末10ppm、水溶液0.10ppm、その他1ppmの残留限度値が指針。COAでの確認が購入・流通の前提となりつつあります。
施行情報では、前記3区分ごとの限度値(10ppm/0.10ppm/1ppm)が明示され、これを超える製品は「麻薬」該当となります。実務では、ロット一致と**単位換算(ppm・mg/kg・%)**の正確さが重要。厚労省は買上調査に基づく注意喚起も公表しており、COA確認がユーザー・小売双方のリスク低減に直結します。
欧州:EFSAの新評価準備作業と英国FSAの暫定ADI
EFSAは2025年9月に準備文書を公表。報道では2mg/日相当の低用量提案が伝えられ、英国FSAは10mg/日の暫定ADI(≥98%CBD)を提示しています。
EFSAのSupporting Publicationは文献探索とエビデンス整理の“準備作業”を示し、総括更新が進行中です。ニュースメディアではBMDLと不確実係数を用いた2mg/日提案が報じられています。一方、英国FSAは≥98%CBDの食品用途で10mg/日の暫定ADIを採用する評価文書を公開し、2025年夏には公表リスト製品の安全性向上のための再処方を認める運用も通知しました。各国の“許容摂取量”は現時点で差があり、輸出入・越境ECでは最新ガイダンスの突合が必須です。
米国:FDAの立場と“ルール未整備市場”の注意点
FDAは2023年に「食品・サプリ既存枠は不適切」と表明し、議会対応を要請。結果、各州市場は続くものの、連邦レベルの包括ルールは未整備です。
FDAは、長期的な安全性やラベル管理などの課題を理由に、現行枠組み下でのCBD食品・サプリ承認は不適切と結論。今後は議会の立法的対応が必要とされ、当面は州法と連邦機関の判断が併存する状況が続きます。越境販売や広告表現は、州ごとの規制差・クレーム規制に留意が必要です。
アジア:香港の全面禁止にみるリスク認識
香港は2023年2月からCBDを危険薬物に指定。所持・販売等を厳罰とする運用で、地域ごとの受容性差が際立っています。
香港政府は危険薬物条例の下でCBDを全面規制。所持や販売に重い罰則が科され、CBD製品は持ち込みも不可と案内されています。アジア域内の姿勢差は大きく、サプライチェーン設計や旅行者の携行にも影響します。
プロダクトトレンド:飲料・美容で進む“低用量×高品位”
飲料はナノエマルジョンの活用が進み、美容は低刺激×COAの流れが定着。共通項は“少量でも設計の質で価値を出す”こと。
2025年は「たくさん入れる」より「安全域×再現性」を重視する流れです。飲料は吸収性向上をねらう技術が普及しつつ、一方で酸性環境でのCBD→THC変換といった化学的リスクも研究で指摘されています。美容は感応性の高いユーザーに向け、アイソレートや低刺激基剤の処方に関心が集まり、COAの可視化が信頼獲得の決め手になっています。
ナノエマルジョンの進化と酸性飲料での留意点
水系適合性と分散性の向上が報告される一方、pH≤4の飲料では長期保管でTHC生成の可能性があるとする研究が出ています。
- 技術のポイント
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- 油滴の微細化で分散安定性と吸収性の改善が期待「されている」。
- 組成や食品行動(食事併用)で体内動態が変わりやすい点に留意。
- 酸性飲料の注意
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- 2025年の研究では、レモネード等pH≤4の製品で長期保管時のCBD→THC変換の可能性が検討されました。設計・品質管理・保存条件の見直しが推奨されます。
外用×美容:表示と品質、国際GMPの導入
外用は「カンナビジオール」表示とISO 22716(化粧品GMP)に沿う工場運用の明示が信頼材料。
表示名称の整合、香料や溶剤の管理、重金属や微生物の第三者試験は、海外でも17025認定ラボでの測定が品質の“共通語”になっています。製造の見える化は、感度の高い美容ユーザーから支持を集めています。
品質トレンド:COA・第三者試験・ISOの三点セット
購入前にCOAを“3分チェック”。製造はISO 22716、試験はISO/IEC 17025の実装が指標となります。
品質のコアは「何が、どれだけ、どれほど清潔に」。各国規制の差があるからこそ、試験法とラボ能力の担保が信頼の基盤です。
COAの3分チェックとppm換算
総THC・安全性項目・ロット一致の3点が最重要。単位換算も必ず確認。
- チェックリスト
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- 総THC:形状区分の限度値(油脂/粉末10ppm・水溶液0.10ppm・その他1ppm)内か。
- 安全性:重金属、農薬、微生物、残留溶媒の項目有無。
- ロット一致:製品ラベルLOT=COA LOT。
※日本では限度超過が見つかった場合、注意喚起が行われる事例があります。
ISO/IEC 17025・ISO 22716:何が“信頼”を支えるのか
17025は試験所の能力、22716は化粧品GMP。両方の言及は品質管理の“共通語”です。
17025(試験):試験の妥当性・再現性・設備校正などを担保。カリフォルニア州などは17025認定を試験ラボに義務付けています。
22716(製造):原料・工程・出荷・苦情対応までを手順化。
購入時は**「COA発行ラボの17025」「製造側の22716」**への準拠表示を確認すると安心です。
スポーツとCBD:WADA2025での位置づけ
CBDそのものは非禁止と整理されていますが、他カンナビノイドは競技会期間中禁止。混入リスク管理が重要です。
WADAの2025年版リスト運用開始に合わせ、各国のアンチ・ドーピング機関は「CBDは非禁止だが、製品にはTHC等が混入し得る」と注意喚起しています。ポケットガイドでは**“CBDは非禁止だが要注意”**と明記され、COA確認と休止期間設計が推奨されています。
競技者の実務:THC混入リスクと対処
出場前の洗い出しとCOA確認、必要なら使用休止を。
- 対策
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- アイソレートやTHC非検出(LOQ明記)のCOAを選ぶ
- 分割試験(原料と最終製品)を持つブランドを選好
- 大会前は使用休止ウィンドウを確保
- サプリ同様、**自己責任原則(Strict Liability)**を認識する
マーケティング&表示トレンド:薬機法配慮と“ファクト・ファースト”
2025年は定量的根拠に基づく表示と安全域の明示が鍵。過大な効能表現はリスクです。
英国FSAの10mg/日や、EFSA準備文書に関連した低用量提案の報道は、企業の**“少量での設計”**を後押ししています。一方、米国ではFDAが包括ルールを議会に委ねる姿勢を示しており、ラベルや広告表現の統一基準は未整備。市場に応じて表示とCOAの透明性を高めることが競争力の源泉になっています。日本では残留THC基準が明確化され、ロットCOAの公開は信頼形成の最短ルートです。
2025年の購買・導入チェックリスト
国・用途・形状の3軸で安全性と適合性を確認。
国別規制
- 日本:10/0.10/1ppmの残留THC基準とCOA照合
- EU:EFSAの最新評価・各国の承認状況を確認
- 英国:FSA公表リストと10mg/日暫定ADIの運用
- 米国:FDAの方針を踏まえ、州法と表示規制に留意
- 香港:全面禁止、携行不可
用途・形状
- 飲料(酸性pH):CBD→THC変換の可能性研究を踏まえ保存条件を再点検
- 外用:ISO 22716・第三者試験・ロットCOAの有無で選別
- 競技者:非禁止はCBDのみ、混入リスク管理を徹底
まとめ:小さく、正しく、長く続くCBDへ
2025年のキーワードは**“低用量×高品位×透明性”。国別規制と科学的知見のアップデートを前提に、賢く選ぶ時代です。
日本の残留THC基準の明確化、欧州・英国の“許容量”議論、米国の制度設計の課題、香港の厳格運用など、地域差の理解が不可欠です。プロダクト面では、ナノエマルジョン等の技術進化と、酸性飲料での化学的リスクへの注意が並行して求められます。品質はCOA×第三者試験×ISOで見極め、スポーツではCBD以外は原則禁止**の前提で自己管理を。小さく始め、根拠とデータで続ける——これが2025年の“失敗しないCBD”の使いこなしです。
- 根拠・参照元
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厚生労働省:大麻取締法等の改正・残留THC限度値(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html)
厚生労働省:残留限度値超過製品への注意喚起(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212707_00028.html)
麻薬取締部(NCD):CBD関連製品と事前確認・限度値解説(https://www.ncd.mhlw.go.jp/cbd.html)
EFSA Supporting Publication:CBD安全性評価の更新準備作業(https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.2903/sp.efsa.2025.EN-9635)
NutraIngredients:EFSAが2mg/日案を示したと報道(https://www.nutraingredients.com/Article/2025/09/09/efsa-updated-cbd-safety-report-concludes-persistent-data-gaps-and-2mgday-limit/)
FSA(英国食品基準庁):暫定ADI10mg/日を用いた評価書(https://science.food.gov.uk/api/v1/articles/134135-safety-assessment-on-the-safety-of-cannabidiol-cbd-isolate-as-a-novel-food-for-use-in-a-range-of-food-categories-including-food-supplements-rp340.pdf)
FSA:Public List製品の安全性向上のための再処方を容認(https://www.food.gov.uk/news-alerts/news/food-standards-agency-updates-guidance-allowing-cbd-businesses-to-reformulate-products-on-the-public-list-for-safety-reasons)
FDA:CBDは現行の食品・サプリ枠組みに適さず、議会と新枠組み検討(https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-concludes-existing-regulatory-frameworks-foods-and-supplements-are-not-appropriate-cannabidiol)
USADA 2025ポケットガイド:CBDは非禁止だが混入注意(https://www.usada.org/wp-content/uploads/2025-USADA-Pocket-Guide.pdf)
香港政府:CBDを危険薬物として規制(https://www.info.gov.hk/gia/general/202301/31/P2023013100299.htm)
ISO 22716(化粧品GMP)概要(https://www.iso.org/standard/36437.html)
California DCC:試験ラボはISO/IEC 17025認定が必要(https://cannabis.ca.gov/licensees/testing-laboratories/)
研究:酸性食品・飲料(pH≤4)におけるCBD→THC変換の可能性(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38888614/)